1 携帯電話を売買することに対する規制
(1)法律が制定された経緯
近年問題になっている、振り込め詐欺では足がつかないように、すでに契約されている携帯電話が利用されることがしばしばあるようです。そのため、携帯電話が不正に利用されることがないように、携帯電話の不正利用に対応する法律(携帯電話不正利用防止法)が平成17年に制定されました。
(2)携帯電話不正利用防止法の概要
携帯電話不正利用法は次のような内容になっています。
携帯電話不正利用防止法 【3条(本人確認)】 1 携帯音声通信事業者は、携帯音声通信役務の提供を受けようとする者との間で、役務提供契約を締結するに際しては、運転免許証の提示を受ける方法その他の総務省令で定める方法により、当該役務提供契約を締結しようとする相手方(以下この条及び第十一条第一号において「相手方」という。)について、次の各号に掲げる相手方の区分に応じそれぞれ当該各号に定める事項(以下「本人特定事項」という。)の確認(以下「本人確認」という。)を行わなければならない。 一 自然人 氏名、住居及び生年月日 2 携帯音声通信事業者は、相手方の本人確認を行う場合において、会社の代表者が当該会社のために役務提供契約を締結するときその他の当該携帯音声通信事業者との間で現に役務提供契約の締結の任に当たっている自然人が当該相手方と異なるとき(次項に規定する場合を除く。)は、当該相手方の本人確認に加え、当該役務提供契約の締結の任に当たっている自然人(第四項及び第十一条第一号において「代表者等」という。)についても、本人確認を行わなければならない。 4 相手方(前項の規定により相手方とみなされる自然人を含む。以下この項及び第十一条第一号において同じ。)及び代表者等は、携帯音声通信事業者が本人確認を行う場合において、当該携帯音声通信事業者に対して、相手方又は代表者等の本人特定事項を偽ってはならない。 【7条(譲渡時の承諾)】 1 契約者は、自己が契約者となっている役務提供契約に係る通話可能端末設備等を他人に譲渡しようとする場合には、親族又は生計を同じくしている者に対し譲渡する場合を除き、あらかじめ携帯音声通信事業者の承諾を得なければならない。 【19条、20条(罰則)】 19条1項 20条1項 |
これを大まかに説明すれば、まず3条では携帯電話会社及び携帯電話を契約しようとする者の義務が規定されています。
これによれば携帯電話会社は販売する際に、本人確認を行わなければならず、携帯電話を購入しようとする者も本人特定情報を偽ってはならないと定めています。
次に7条では、自分が契約した携帯電話を他人に譲渡する場合には、携帯電話会社に承諾を得なければならないと定めています。
そして、19条、20条で以上の規定に反し、本人特定情報を偽った者、無断で携帯電話を譲渡した者への罰則が定められています。
(3)携帯電話不正利用防止法に関してよくあるご質問
Q 個人的に1回だけ携帯電話を譲渡しただけでも処罰されますか。
A 詐欺罪の幇助犯として処罰される可能性があります。
携帯電話不正利用防止法では、業として出ない場合や有償でない場合には、譲渡そのものを処罰する規定がありません。業としてといえるには、譲渡を反復継続する必要があるので、個人的に1回だけ渡した場合には、携帯電話不正利用防止法違反の罪には問われないと考えられます。
しかし、譲渡された携帯電話が特殊詐欺などに利用されることはよく知られています。そのため、相手方が詐欺に利用することを知って譲渡した場合には、詐欺罪の幇助に当たる場合があります。詐欺を行うことを知らなければ、詐欺罪の幇助が成立することはありません。しかし、携帯電話を知らない人に渡せば、悪用されることは予想できるので携帯電話をむやみに他人に渡すことは止めましょう。
Q 最初から譲渡する目的で携帯電話を契約し、それを譲渡した場合はどうなりますか
A 詐欺罪に当たる可能性があります。
携帯電話不正利用法で、携帯電話の譲渡が禁止されているので当然、譲渡目的であることを知っていれば携帯電話を販売しないはずです。そのため、携帯電話会社に対し、本当の目的を秘して契約をした場合には、携帯電話・携帯電話通信サービスを詐取したことになり、詐欺罪が成立することとなります。
2 口座を売買することに対する規制
(1)法律が制定された経緯
銀行口座の売買は近年横行している振り込め詐欺やマネーロンダリング等、犯罪の温床になりやすいのでその対応が求められていました。そこで、犯罪収益移転防止法が制定され、口座が疑わしい取引に用いられないようにするため、口座開設の際の本人確認や疑わしい取引の報告等が金融機関に求められています。
(2)犯罪収益移転防止法の概要
犯罪収益移転防止法は次のような内容になっています。
【犯罪収益移転防止法 第28条】 1 他人になりすまして特定事業者(第2条第2項第1号から第15号まで及び第35号に掲げる特定事業者に限る。以下この条において同じ。)との間における預貯金契約(別表第2条第2項第1号から第36号までに掲げる者の項の下欄に規定する預貯金契約をいう。以下この項において同じ。)に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせることを目的として、当該預貯金契約に係る預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報その他特定事業者との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けるために必要なものとして政令で定めるもの(以下この条において「預貯金通帳等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。 2 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。 3 業として前2項の罪に当たる行為をした者は、3年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 |
簡単に説明すれば、1項は、他人に成りすます目的で通帳やカードを譲り受ける等した場合を、2項は相手が他人に成りすます目的を有していることを知りながら、口座等を譲渡する場合を処罰しています。
ここで処罰を受ける場合に携帯電話不正利用防止法と異なる点があるので注意が必要です。携帯電話を譲渡する場合には、「業として」渡していなければ処罰対象になりませんでしたが、口座売買の場合は「業として」の要件が処罰を重くする事由であるので(28条3項)、個人的に1度だけ譲渡しただけでも処罰対象になるので注意が必要です。
(3)犯罪収益移転防止法に関してよくあるご質問
Q 犯罪収益移転防止法28条に反する場合とはどのような場合ですか
A 正当に開設した口座を売ってしまう場合や、キャッシュカードと届出印を一緒に渡してしまう場合などに適用されます。
Q 最初から譲渡する目的で口座を開設した場合は何罪が成立しますか
A この場合は詐欺罪に当たります。
銀行は、犯罪収益移転防止法の関係もあり、口座そのものや、カードなどを譲渡することを禁止しています。
そのため、仮に銀行が本当の目的(口座の譲渡)を知っていたならば、口座を開設し、通帳やカードを交付することはなかったと言えます。そのため、口座譲渡の目的を隠したまま、口座を開設し、通帳やカードの交付を受けた場合には、詐欺罪が成立すると考えられます。
~犯罪収益移転防止法・携帯電話不正利用防止法の弁護活動~
①略式起訴を狙った弁護活動
犯罪収益移転防止法や携帯電話不正利用防止法の場合、罰金刑が定められています。
そして、初犯であり、詐欺グループとの関わり合いが薄いと判断された場合には、罰金刑で終わる可能性が十分にあります。特に重要となるのは取調対応になります。仮に譲渡した口座や携帯電話が詐欺等の犯罪に使用されていれば、詐欺への関与が疑われることになります。ここで警察官の誘導のまま答えてしまうと、詐欺罪についても認める内容の調書が作成されるおそれもあります。そのようなことがないように、接見や弁護士との打ち合わせを通じて、取調対応につきアドバイスしていきます。
略式請求であれば、法廷に行って裁判を受ける必要がなく、書面による審理のみで終わらせることが可能です。
②身柄解放活動
逮捕・勾留されてしまうのは、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるためです。そこで、弁護士は早期釈放・早期保釈のために証拠隠滅や逃亡の恐れがないことを示す客観的証拠を収集し、社会復帰後の環境を整備するなどして釈放や保釈による身柄解放を目指します。
③否認の場合の弁護活動
否認事件では、独自に事実調査を行うとともに、意見書を作成するなどして不起訴に向けて検察官に働きかけを行います。
津や四日市など三重県の携帯電話・銀行口座売買事件でお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご連絡ください。弊所では、犯罪収益移転防止法や携帯電話不正利用防止法など三重県内の財産犯罪や経済事件について、刑事事件・少年事件に専門特化した弁護士による無料の法律相談を行っています。関係者が三重県で逮捕勾留されている場合でも、最短当日に、弁護士が直接留置場や拘置所へ出張面会してアドバイスする初回接見サービスもご用意しています。