携帯電話・銀行口座の売買

※2025年6月1日より、改正刑法に基づき懲役刑および禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されました。
当ページでは法改正に基づき「拘禁刑」と表記していますが、旧制度や過去の事件に関連する場合は「懲役」「禁錮」の表現も含まれます。

1 携帯電話を売買することに対する規制

(1)法律が制定された経緯

近年問題になっている、振り込め詐欺では足がつかないように、すでに契約されている携帯電話が利用されることがしばしばあるようです。そのため、携帯電話が不正に利用されることがないように、携帯電話の不正利用に対応する法律(携帯電話不正利用防止法)が平成17年に制定されました。

 

(2)携帯電話不正利用防止法の概要

携帯電話不正利用法は次のような内容になっています。

携帯電話不正利用防止法

【3条(本人確認)】

1 携帯音声通信事業者は、携帯音声通信役務の提供を受けようとする者との間で、役務提供契約を締結するに際しては、運転免許証の提示を受ける方法その他の総務省令で定める方法により、当該役務提供契約を締結しようとする相手方(以下この条及び第十一条第一号において「相手方」という。)について、次の各号に掲げる相手方の区分に応じそれぞれ当該各号に定める事項(以下「本人特定事項」という。)の確認(以下「本人確認」という。)を行わなければならない。

一  自然人 氏名、住居及び生年月日
二  法人 名称及び本店又は主たる事務所の所在地

2  携帯音声通信事業者は、相手方の本人確認を行う場合において、会社の代表者が当該会社のために役務提供契約を締結するときその他の当該携帯音声通信事業者との間で現に役務提供契約の締結の任に当たっている自然人が当該相手方と異なるとき(次項に規定する場合を除く。)は、当該相手方の本人確認に加え、当該役務提供契約の締結の任に当たっている自然人(第四項及び第十一条第一号において「代表者等」という。)についても、本人確認を行わなければならない。

4  相手方(前項の規定により相手方とみなされる自然人を含む。以下この項及び第十一条第一号において同じ。)及び代表者等は、携帯音声通信事業者が本人確認を行う場合において、当該携帯音声通信事業者に対して、相手方又は代表者等の本人特定事項を偽ってはならない。

【7条(譲渡時の承諾)】

1 契約者は、自己が契約者となっている役務提供契約に係る通話可能端末設備等を他人に譲渡しようとする場合には、親族又は生計を同じくしている者に対し譲渡する場合を除き、あらかじめ携帯音声通信事業者の承諾を得なければならない。

【19条、20条(罰則)】

19条1項
本人特定事項を隠ぺいする目的で、第3条第4項の規定に違反した者は、50万円以下の罰金に処する。

20条1項
第7条第1項の規定に違反して、業として有償で通話可能端末設備等を譲渡した者は、2年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

これを大まかに説明すれば、まず3条では携帯電話会社及び携帯電話を契約しようとする者の義務が規定されています。

これによれば携帯電話会社は販売する際に、本人確認を行わなければならず、携帯電話を購入しようとする者も本人特定情報を偽ってはならないと定めています。

次に7条では、自分が契約した携帯電話を他人に譲渡する場合には、携帯電話会社に承諾を得なければならないと定めています。

そして、19条、20条で以上の規定に反し、本人特定情報を偽った者、無断で携帯電話を譲渡した者への罰則が定められています。

 

(3)携帯電話不正利用防止法に関してよくあるご質問

Q 個人的に1回だけ携帯電話を譲渡しただけでも処罰されますか。

A 詐欺罪の幇助犯として処罰される可能性があります。

携帯電話不正利用防止法では、業として出ない場合や有償でない場合には、譲渡そのものを処罰する規定がありません。業としてといえるには、譲渡を反復継続する必要があるので、個人的に1回だけ渡した場合には、携帯電話不正利用防止法違反の罪には問われないと考えられます。

しかし、譲渡された携帯電話が特殊詐欺などに利用されることはよく知られています。そのため、相手方が詐欺に利用することを知って譲渡した場合には、詐欺罪の幇助に当たる場合があります。詐欺を行うことを知らなければ、詐欺罪の幇助が成立することはありません。しかし、携帯電話を知らない人に渡せば、悪用されることは予想できるので携帯電話をむやみに他人に渡すことは止めましょう。

 

Q 最初から譲渡する目的で携帯電話を契約し、それを譲渡した場合はどうなりますか

A 詐欺罪に当たる可能性があります。

携帯電話不正利用法で、携帯電話の譲渡が禁止されているので当然、譲渡目的であることを知っていれば携帯電話を販売しないはずです。そのため、携帯電話会社に対し、本当の目的を秘して契約をした場合には、携帯電話・携帯電話通信サービスを詐取したことになり、詐欺罪が成立することとなります。

 

2 口座を売買することに対する規制

(1)法律が制定された経緯

銀行口座の売買は近年横行している振り込め詐欺やマネーロンダリング等、犯罪の温床になりやすいのでその対応が求められていました。そこで、犯罪収益移転防止法が制定され、口座が疑わしい取引に用いられないようにするため、口座開設の際の本人確認や疑わしい取引の報告等が金融機関に求められています。

 

(2)犯罪収益移転防止法の概要

犯罪収益移転防止法は次のような内容になっています。

【犯罪収益移転防止法 第28条】  

1 他人になりすまして第二条第二項第三十一号に掲げる特定事業者(以下この項及び第三十二条第四項第一号において「資金移動業者」という。)との間における為替取引により送金をし若しくは送金を受け取ること又はこれらを第三者にさせることを目的として、当該為替取引に係る送金の受取用のカード、送金又はその受取に必要な情報その他資金移動業者との間における為替取引による送金又はその受取に必要なものとして政令で定めるもの(以下「為替取引カード等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、3年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、為替取引カード等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。
2 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に為替取引カード等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、為替取引カード等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。
3 業として前二項の罪に当たる行為をした者は、5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
4 第一項又は第二項の罪に当たる行為をするよう、人を勧誘し、又は広告その他これに類似する方法により人を誘引した者も、第一項と同様とする。

簡単に説明すれば、1項は、他人に成りすます目的で通帳やカードを譲り受ける等した場合を、2項は相手が他人に成りすます目的を有していることを知りながら、口座等を譲渡する場合を処罰しています。口座等の売買をするようにリクルートする行為も処罰されます(28条4項)。

ここで処罰を受ける場合に携帯電話不正利用防止法と異なる点があるので注意が必要です。携帯電話を譲渡する場合には、「業として」渡していなければ処罰対象になりませんでしたが、口座売買の場合は「業として」の要件が処罰を重くする事由であるので(28条3項)、個人的に1度だけ譲渡しただけでも処罰対象になるので注意が必要です。

 

(3)犯罪収益移転防止法に関してよくあるご質問

Q 犯罪収益移転防止法28条に反する場合とはどのような場合ですか

A 正当に開設した口座を売ってしまう場合や、キャッシュカードと届出印を一緒に渡してしまう場合などに適用されます。

 

Q 最初から譲渡する目的で口座を開設した場合は何罪が成立しますか

A この場合は詐欺罪に当たります。

銀行は、犯罪収益移転防止法の関係もあり、口座そのものや、カードなどを譲渡することを禁止しています。

そのため、仮に銀行が本当の目的(口座の譲渡)を知っていたならば、口座を開設し、通帳やカードを交付することはなかったと言えます。そのため、口座譲渡の目的を隠したまま、口座を開設し、通帳やカードの交付を受けた場合には、詐欺罪が成立すると考えられます。

 

3 送金代行に対する規制

(1)送金代行に関する罰則が創設された経緯

従来のマネー・ロンダリングは、他人から預貯金口座を譲り受けて行われていました。しかし、近年、他人から預貯金口座を譲り受けるのではなく、他人に依頼してマネー・ロンダリングをさせる手口になっています。この手口は、従来の犯罪収益移転防止法では、処罰することができない、いわば「脱法的行為」でした。そこで、送金犯罪は、口座売買と同様にマネー・ロンダリングに加担するものであり、処罰の対象とする必要性があることから、令和8年の犯罪収益移転防止法の改正により、新たに送金犯罪が創設されました(令和8年7月10日より施行です。)。

 

(2)送金犯罪の概要

犯罪収益移転防止法は次のような内容になっています。

【犯罪収益移転防止法 第28条】  

1 通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、自己又は第三者が管理し、又は管理しようとする財産を移転することを目的として、人に、有償で特定役務利用財産移転行為をするように依頼した者は、2年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、当該目的で、有償で特定役務利用財産移転行為をするよう、広告その他これに類似する方法により人を誘引した者も、同様とする。
2 通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、他人の依頼を受けて、当該他人に前項前段の目的があることの情を知って、有償で特定役務利用財産移転行為をした者は、2年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、特定役務利用財産移転行為を引き受けることを示して、有償での特定役務利用財産移転行為の実施を自己に依頼するよう、人を勧誘し、又は広告その他これに類似する方法により人を誘引した者も、同様とする。
3 業として第一項前段又は前項前段の罪に当たる行為をした者は、3年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
4 第一項及び第二項において「特定役務利用財産移転行為」とは、次に掲げる行為をいう。
一 預貯金契約等役務(次のイからホまでに掲げる特定事業者との間における当該イからホまでに定める契約に係る役務及び預貯金取扱事業者又は資金移動業者との間における為替取引による送金又はその受取に係る役務をいう。次号及び第三号において同じ。)を利用して自己以外の者に財産を移転する行為
イ 預貯金取扱事業者 預貯金契約
ロ 高額電子移転可能型前払式支払手段発行者 高額電子移転可能型前払式支払手段利用契約
ハ 電子決済手段等取引業者 電子決済手段等取引契約
ニ 電子決済等取扱業者等 電子決済等利用契約
ホ 暗号資産交換業者 暗号資産交換契約
二 預貯金契約等役務を利用して受け取った財産に相当する財産の全部又は一部を自己以外の者に移転する行為
三 預貯金契約等役務を利用して財産を受け取ることを約して、当該財産に相当する財産の全部又は一部を自己以外の者に移転する行為

簡単に説明すれば、1項は、他人に送金犯罪を依頼した場合を、2項は他人から依頼を受けて送金犯罪を実行した場合を処罰しています。

 

(3)送金犯罪に関してよくあるご質問

Q 犯罪収益移転防止法32条に反する場合とはどのような場合ですか

A 金銭等の報酬を渡すことを約束して他の口座に送金行為を頼む場合や、金銭等の報酬をもらって他の口座に送金行為をした場合などに適用されます。

 

Q 全ての送金代行行為が送金犯罪に当たるのですか。

A 全ての送金代行行為が処罰されるわけではありません。たとえば、食事の会費を代表者が決済アプリや口座振込で集金したり、自身の消費に関する支払に必要な送金を家族に任せる場合などは、送金代行行為に「正当な理由がある」として送金犯罪となるわけではありません。

 

4 警察による架空名義口座の利用

特殊詐欺などの資金流出を防ぐため、警察官が金融機関の協力を得て架空名義口座を開設・提供し、犯罪グループに利用させて詐欺被害金が振り込まれた際に、警察官が直ちに口座を凍結して資金を確保することができるようになりました。

架空名義口座に詐欺被害金の入金が確認された被害者への返還や給付金支給、残金の犯罪被害者支援への充当が行われるので、警察による架空名義口座の利用は特殊詐欺グループの摘発だけではなく、被害者救済にもつながります。

 

~犯罪収益移転防止法・携帯電話不正利用防止法の弁護活動~

①略式起訴を狙った弁護活動

犯罪収益移転防止法や携帯電話不正利用防止法の場合、罰金刑が定められています。

そして、初犯であり、詐欺グループとの関わり合いが薄いと判断された場合には、罰金刑で終わる可能性が十分にあります。特に重要となるのは取調対応になります。仮に譲渡した口座や携帯電話が詐欺等の犯罪に使用されていれば、詐欺への関与が疑われることになります。ここで警察官の誘導のまま答えてしまうと、詐欺罪についても認める内容の調書が作成されるおそれもあります。そのようなことがないように、接見や弁護士との打ち合わせを通じて、取調対応につきアドバイスしていきます。

略式請求であれば、法廷に行って裁判を受ける必要がなく、書面による審理のみで終わらせることが可能です。

 

②身柄解放活動

逮捕・勾留されてしまうのは、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるためです。そこで、弁護士は早期釈放・早期保釈のために証拠隠滅や逃亡の恐れがないことを示す客観的証拠を収集し、社会復帰後の環境を整備するなどして釈放や保釈による身柄解放を目指します。

 

③否認の場合の弁護活動

否認事件では、独自に事実調査を行うとともに、意見書を作成するなどして不起訴に向けて検察官に働きかけを行います。

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