(1)暴行罪
【暴行罪(刑法208条)】 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。 |
1 「暴行」の意味について
暴行罪の「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力の行使と定義されます。
典型例は、殴る、蹴る、引っ張るといった行為です。しかし、有形力の行使は、必ずしも身体への接触を伴うものでなくても構いません。例えば、被害者の耳元で拡声器により大声を発することも「暴行」にあたりますし、車の幅寄せ行為なども「暴行」にあたります。
2 暴行罪についてよくあるご質問
Q 怪我をさせなくても暴行罪になることはありますか?
A はい。むしろけがをさせない場合が暴行罪にあたります。
暴行罪は先ほど説明した「暴行」を他人に対して行い、相手が怪我をしなかった場合に成立します。暴行を手段として行った場合に、相手が怪我をしていなければ暴行罪、相手に怪我をさせてしまった場合には傷害罪が成立します。
Q 相手に当たらなかった攻撃でも暴行罪になることはありますか?
A はい。裁判例でもあたるとされた例があります。例えば、驚かせる目的で人の数歩手前を狙って投石する行為(東京高判昭和25年6月10日)や、四畳半の室内で日本刀の抜き身を振り回す行為(最決昭和39年1月28日)などが、「暴行」に当たると判断されています。
Q 不注意で他人にぶつかってしまったり、他人の足をふんでしまったりしても暴行罪が成立しますか?
A 暴行罪は成立しません。
暴行罪は故意犯に分類されるので、「故意に」、すなわち「わざと」相手に暴行をした場合でなければ成立しません。したがって不注意でしてしまった場合には暴行罪は成立しません。ただし、不注意でも相手に怪我をさせてしまった場合には過失傷害罪が成立する可能性があるので注意してください。
Q プロレスや、ボクシングでは人を殴っていますが、暴行罪は成立しないのですか?
A スポーツ行為は正当な業務(35条)による行為として処罰されないので、暴行罪は成立しません。但し、あくまで業務だから暴行罪が成立しないのであって、友達同士のいわゆる「プロレスごっこ」の中で殴る行為には暴行罪が成立します。
Q 他人が殴ってきました。それを払いのけるためその人を押しました。この場合に暴行罪が成立しますか。
A 状況によっては暴行罪が成立しない場合、処分の重さに考慮される場合があります。
払いのけるために押した行為が正当防衛(刑法36条1項)と認められる、すなわち自分を防衛するためにやむを得ない行為と判断されれば、暴行罪は成立しません。また防衛のためとはいえ少しやりすぎだと判断されれば、過剰防衛(刑法36条2項)が成立し刑が軽くなる場合があります。
(2)傷害罪
【傷害罪(刑法204条)】 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 |
1 「傷害」の意味について
傷害罪の「傷害」とは人の生理的機能に障害を生じさせたことを意味します。例えば、切り傷を負わせたり、打撲させたりすることが挙げられます。このような考えに立つと、生理的機能に問題が生じない髪の毛を切る行為などについては、暴行罪になる余地があります(ただし、程度にもよるので具体的事案によります)。
また、結果として人の生理的機能に障害を生じさせれば成立するので、脅迫をしたり、騒音を発したりして相手をノイローゼ状態にした場合には、行為自体は暴行にあたりませんが、傷害罪が成立します。
2 傷害罪についてよくあるご質問
Q 傷害罪の「傷害結果」は肉体的なものに限定されますか。
A いいえ、肉体的なものに限定されません。騒音でPTSDにする行為(最決平成17年3月29日)など、精神疾患を生じさせた場合にも傷害罪の成立が認められています。
Q 嫌いな相手の飲み物に睡眠薬を混入させて眠らせましたが、この場合に成立する犯罪はありますか。
A 傷害罪が成立します。眠らせることで起きて生活するという「生理的機能」を害しているからです。目に見える怪我だけでなく、疲労倦怠、めまい、嘔吐、失神、病気の罹患、PTSD等も「傷害」にあたります。
Q 学校の先生が指導の一環で生徒に怪我をさせてしまった場合、傷害罪に問われますか
A 態様によりますが、傷害罪が成立する可能性があります。
学校教育法11条には次のような規定があります。
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない
この規定によれば、学校の先生は体罰を課すことはできませんが、指導の一環として必要かつ相当な範囲で有形力の行使をすることも可能であると考えられます。ただし、傷害を負わせるような場合は通常、必要かつ相当な範囲とはいえず傷害罪が成立する可能性が考えられます。
(3)傷害致死罪
【傷害致死罪(刑法205条)】 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する。 |
1 傷害致死罪が成立する場合
傷害罪にあたる行為、例えば殴る行為等によって、結果として相手が死亡した場合に傷害致死罪が成立します。
2 傷害致死罪についてよくあるご質問
Q 殺人罪と傷害致死罪の違いは何ですか?
A 殺人罪との違いは、殺意があるかどうかです。相手を殺したい、少なくとも死んでも構わないという意図があった場合には、殺人罪が成立します。反対に、殺すつもりまではなかった、という場合には傷害致死罪が成立します。
~傷害事件・暴行事件の弁護活動~
1 示談活動
暴行・傷害事件は、被害者がいる犯罪ですので、示談の成立が処分を軽くするのに非常に重要です。初犯であって、重大な傷害を負わせた事件でなければ、示談の成立により「不起訴処分」や「略式請求」による罰金が見込まれます。
不起訴処分であれば、前科がつきません。また、略式請求であれば前科はつきますが、罰金を支払うことにより手続きから早期に解放されることとなります(テレビドラマで見るような法廷に立つ必要がなくなります)。特に、暴行事案や相手の怪我が軽傷にとどまっているような事案であれば、示談の成立により、警察段階で事件が終了することもあります。また、被害者の方が被害届を提出する前であれば、被害届の提出をしないよう説得し、事件化を防ぐことができる可能性もあります。
2 早期の身柄開放活動
逮捕・勾留されてしまうのは、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるためです。そこで、弁護士は早期釈放・早期保釈のために証拠隠滅や逃亡の恐れがないことを示す客観的証拠を収集し、社会復帰後の環境を整備するなどして釈放や保釈による身柄解放を目指します。早期に身柄が解放されることで、意に反する自白を防ぐ、社会復帰をスムーズにするといったメリットがあります。
3 無罪を主張する場合
(1)正当防衛の主張
現実に何らかの暴行を行ってしまったとしても、それが相手からの暴力から身を守るためにしてしまう場合もあります。このような場合、相手からの突然の暴力から身を守るためにとった行為が、やむを得ないものであるとして、正当防衛の成立を主張することが考えられます。正当防衛の主張が認められると、犯罪は成立せず、無罪となります。
しかし、正当防衛の主張をする場合、裁判所にいって突如主張するのではなく、取調べの段階から周到に準備が必要です。しかし、一般の方ですとどのような場合に正当防衛になるのか分からない方、そもそも正当防衛で無罪になることを知らない方もいらっしゃいます。
そこで、弁護士がつけば、どのような主張をすれば有利になるか、逆にどのような内容を調書に書かれると今後不利になるかなど事件の見通しも含めた法的なアドバイスを受けることができます。また弁護人が、検察官に対し正当防衛を具体的に主張することで、不起訴を狙っていくことも可能になります。
(2)因果関係不存在の主張
傷害罪が成立するためには、被害者が負った傷害結果が、加害者の暴行行為によって引き起こされたものである必要があります。加害者の暴行行為がなければ、けがもなかった(「あれなくば、これなし」)という関係(因果関係)がなければ傷害罪は成立しません。また、傷害致死罪において傷害行為と死亡との因果関係が否定された場合、軽い傷害罪の範囲で処罰されることになります。
もし、暴行態様や暴行を加えた部位から、起こりえない傷害結果が認定されているとき、また認定された傷害結果が不当に重いときには、その旨を主張して傷害罪の成立を否定したり、量刑を軽くしてもらうことができます。しかし、因果関係がないという主張・証明を、客観的証拠に基づいて説得的に行っていくことは、専門的な知識が必要となり、一般の方には難しいと思います。
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