【現住建造物等放火(刑法108条)】 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期もしくは5年以上の懲役に処する。 【非現住建造物等放火(109条)】 (1項) (2項) 【建造物等以外放火(110条)】 (1項) (2項) |
1 放火罪について
(1)放火罪とはどのような罪か
放火罪とは文字通り、人の家や物に火をつける犯罪です。放火行為によって不特定又は多数人の生命・身体・財産に危険を発生させたことに処罰の根拠がある公共の危険に対する罪です。そして放火罪には、何に火をつけたかによって成立する罪名が以下のように3つに分かれます。放火する対象によって刑罰の重さも変わってきます。
- 現住建造物放火罪
- 非現住建造物放火罪
- 建造物等以外放火罪
以下では、それぞれの罪がどのような場合に成立するか説明していきます。
(2)現住建造物放火罪
「現住建造物」とは、現に人の起臥寝食の場所として日常使用している建物のことをいいます。簡単に言えば人が住んでいる建物をいいます。火をつけたときに実際に生活している必要はなく、勤務中や旅行中といった理由で一時的に住人が家にいなかった場合でも、現住建造物放火罪が成立します。ただし、放火した犯人しか住んでいなかった場合は次に説明する「非現住建造物」に当たります。放火犯人は住人として数えません。
現住建造物放火罪の法定刑は「死刑又は無期もしくは5年以上の懲役」となっており殺人罪と同じ重さの法定刑とされています。現住建造物放火罪が殺人に匹敵するほど重い刑になっているのは、かつては木造建物が多く、1つの家屋を燃やすと周囲に容易に延焼する危険性が非常に高かったため、危険性が高い行為と考えられたことによります。
(3)非現住建造物放火罪
非現住建造物とは、現住建造物以外の建物、すなわち人が住んでいない建造物です。
非現住建造物に放火した場合の法定刑は2年以上の有益懲役です。
この建造物が放火した人物の所有物であった場合の法定刑は6ヶ月以上7年以下の懲役になります。ただし、その人の所有物であったとしても、その建物に保険が掛けられていたり、抵当権が設定されていたりする場合には、他人の所有物扱いとなり、2年以上の有期懲役となります。これらの場合、その建物が放火されることで、他人に損害が及ぶからです。
(4)建造物等以外放火罪
建造物以外に放火した場合(例えば、他人の自動車に火をつけた場合)の法定刑は、「1年以上10年以下の懲役」となります。
また、本人の所有物を燃やしたのであれば「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金」になります。保険を付していたり質権が設定されている場合に他人の所有物と同じ扱いになるのは先程と同じです。
2 失火罪について
【失火(116条)】 (1項) (2項) |
失火罪とは、わざと火をつけたのではなく不注意により出火し、物が焼損したことで成立する犯罪です。焼損した物により法定刑が変わってきます。
1項は、焼損した物が現住建造物等または他人所有の非現住建造物等の場合です。
2項は、焼損した物が自己所有の非現住建造物等または建造物等以外の物の場合です。
3 放火罪・失火罪についてよくあるご質問
Q 放火罪の条文に書かれている「焼損」とはどのような意味ですか
A まず「焼損」したといえるかによって何が変わるかについてですが、「焼損」したかによって放火罪となるのか、放火「未遂」罪になるかが変わります。もちろん未遂となる方が一般的に刑罰は軽くなります。
そして「焼損」の定義については、「火が媒介物を離れて、目的物が独立に燃焼を継続する状態に達すれば足りる」(「独立燃焼説」と呼ばれています)と解釈されています。例えば、部屋の天井の一部を焼いた場合にも「焼損」が認められています。
これに対し、建物から独立している部分(例えば網戸)を燃やしている段階では、未だ建造物を焼損していないため、未遂にとどまります。
Q 現在では燃えにくい素材(例えば鉄筋コンクリート)の家が増えてきましたが、そのような家が放火される場合の「焼損」の意味は変わってきますか。
A 変わりません。
燃えにくい素材の場合であっても、独立して燃焼を始めた場合に「焼損」が認められます。ただし、「焼損」させなかったとしても、放火が未遂になるだけで放火罪が成立しないわけではないので決して建物等に火をつけてはなりません。
~放火罪・失火罪の弁護活動~
①示談交渉
放火罪・失火罪では家を燃やされたり、死傷したりと被害者のいる犯罪ですので、被害者の方との示談交渉の成否が量刑に大きな影響を与えます。放火罪は重い量刑が定められているので特に示談が重要といえます。
示談交渉については、弁護士が間に入ることで有利には働くことがあります。個人の方を相手にする場合であっても、弁護士限りで個人情報を教えてもらえる場合もありますし、仮に連絡先を知っていたとしても、相手の被害感情を考えると直接被疑者が被害者と交渉を行うのは困難であり、示談ができたとしても不相当に過大な金額での示談解決になる可能性が大きいと考えられます。弁護士が間に入れば、冷静な交渉により妥当な金額での示談解決が図りやすくなります。
②取調対応
複数件の放火をしてしまっていて記憶があいまいな場合には、警察の誘導に乗って自分がしていない件についても誤った内容の調書をとられてしまうおそれがあります。取調対応については、自分の記憶があいまいな部分、はっきり覚えていない部分については自分から話したり、警察の調書に署名押印したりしないのが適切な対応になります。警察の誘導に乗ってしまうと、後の裁判で不利に扱われるおそれが高いです。
身柄事件であれば弁護士が接見することで、身体拘束のない在宅の事件であっても、弁護士と取調べ前に打合せすることで、取調べの際の注意点や、誤った調書にはサインしてはいけない等のアドバイスを受けることができます。このように弁護士をつけることで、取調べに対し適切に対応することが可能になります。
③身柄解放活動
逮捕・勾留されてしまうのは、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるためです。そこで、弁護士は早期釈放・早期保釈のために証拠隠滅や逃亡の恐れがないことを示す客観的証拠を収集し、社会復帰後の環境を整備するなどして釈放や保釈による身柄解放を目指します。
④公判での弁護活動
事実を認めている事件であれば、監督体制の確立や再犯をしないための環境調整等を行い、被告人にとって有利な事情を主張し執行猶予判決などの有利な処分を獲得することを目指します。
否認事件であれば、独自に事実調査を行うとともに、証拠の収集・作成などを行い裁判において無罪や被告人の言い分通りの判決になるような弁護活動を行います。
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