遺棄・保護責任者遺棄

【遺棄罪(刑法217条)】

老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、1年以下の懲役に処する。

【保護責任者遺棄罪(刑法218条)】

老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。

【遺棄致死傷(刑法219条)】

前2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処する。

【軽犯罪法】

1条18号
自己の占有する場所内に、老幼、不具、若しくは傷病のため扶助を必要とする者又は人の姿態若しくは死胎のあることを知りながら、速やかにこれを公務員に申し出なかった

2条
前条の罪を犯した者に対しては、情状に因り、その刑を免除し、又は拘留及び科料を併科することができる。

 

1 「遺棄」の意味

遺棄罪とは、大まかに言うと助けが必要な人を「捨てる・見捨てる」犯罪です。遺棄罪が罪に問われているのは、助けが必要な人を保護せずに、危険な状態に置くことで、そうされた人の生命身体に危険が及ぶからです。

実際どのような行為がこの遺棄罪に当たるのかははっきりしない面があります。また、保護責任者遺棄致死罪の場合には、殺人罪との区別が問題となる場合があります。

このように遺棄罪は、成立するかどうか難しい犯罪ですので、遺棄罪を疑われている場合には、本当に遺棄罪に当たるのか弁護士に相談することをお勧めします。

 

2 単純遺棄罪(刑法217条)

217条の「遺棄」の意味は?

刑法217条の「遺棄」は、条文に列挙されている助けを必要とする者を危険な場所に移転させることを言います。例えば、乳幼児を人気のない山奥に連れていく行為などがこれに当たります。ただ放置するのみでは217条の「遺棄」には当たりません。

次に詳しく書きますが、218条の保護責任者遺棄における「遺棄」の意味とは異なりますので注意が必要です。

 

3 保護責任者遺棄罪

(1)保護責任者遺棄罪と単純遺棄罪の違い

保護責任者遺棄罪とは、助けを必要とする者と一定の関係がある者が、「遺棄」若しくは「生存に必要な保護をしなかった」場合に、単純遺棄罪より重く処罰する犯罪です。

助けを必要とする者を、最も助けるべき者が助けなかったわけですから、重く処罰されても仕方ない、ということになります。また217条の単純遺棄罪と比較して条文に「生存の必要な保護をしなかったとき」も処罰対象に含めています。これは、被害者と一定の関係にある者であるから、より負っている責任が重くする趣旨であると考えられます。

 

(2)どのような行為が処罰となるのか?

ア 遺棄
すでに述べた通り、単純遺棄罪の場合には、物理的に助けを必要とする者を場所的に移動させる場合が犯罪になります。

しかし、この保護責任者遺棄罪の場合には、物理的に移動させる場合だけではなく、どこかに置き去りにしてくるような場合も含まれます。この置き去りとは、例えば、母親が生活能力のない子どもを自宅に置いていくような場合が含まれます。このように保護責任者遺棄罪の方が処罰範囲は広くなります。

イ 生存に必要な保護をしない

「生存に必要な保護をしない」とは、保護を必要とする者と保護すべき者が、場所的に離れることはなく、必要な保護をしないことを指します。何が必要な保護であるかは、保護者との関係や、保護を必要とする理由等の具体的状況に照らし判断されます。

例えば、母親が同居している自分の2歳の子どもに食事を与えないような場合が「保護をしない」場合に当たります。いわゆる親のネグレクトと言われるようなケースがこれにあたります。

 

(3)保護する責任のある者とは?

助けを必要とする者を保護する責任がある者とは、どのような者を指すかが問題になります。なぜなら先述のように、「保護する責任のある者」にあたれば処罰される行為の範囲が広くなってしまうからです。すなわち、「保護する責任のある者」にあたれば、単純遺棄罪では処罰されなかった行為についても処罰される可能性が出てくるのです。

法律上、このような人物である、という定義はありません。

一般には、①法令②契約③条理等に従って決定すると考えられています。

具体例については、後のQ&Aをご覧ください。

 

4 遺棄罪・保護責任者遺棄罪についてよくある質問

Q 道端で倒れている人を見つけましたが、関わり合いになりたくないと考えて、そのまま素通りしました。遺棄罪になるのでしょうか?

A この場合、遺棄罪にはなりません。

217条の「遺棄」は、助けが必要な人を場所的に移動させる犯罪です。

素通りした場合には、倒れている人を移動させていないため、遺棄罪にはなりません。

 

Q 自分の家の敷地内に行き倒れている人がいました。この人を放置すれば遺棄罪になるのでしょうか?

A この場合にも単純遺棄罪が成立することはありません(ただし保護責任者遺棄が成立する可能性については次の項を参照してください)。

単純遺棄罪は、人を物理的に移動させた場合に成立するため、放置しているだけでは成立しないこととなります。

しかし、上にあげている軽犯罪法1条18号の罪が成立することはありますので、このような人を見かけた場合には早期に警察・消防等に連絡する必要があります。

 

Q 保護する責任のある者とは、具体的にはどのような人でしょうか?

A 保護する責任があるかどうかは、①法令②契約③条理等の観点から判断します。具体例は以下の通りです。

  1. 法令
    法令で保護する責任を負っている者としては、以下のような例があります。
    (1)親子
    民法730条で、直系血族(親子も含まれます)は互いに扶け合わなければならないと定められています。
    (2)交通事故の被害者と加害者
     道路交通法72条1項により、運転者は負傷者を救護しなければならないと定められています。
  2. 契約
    契約上、保護する義務が当然あると考えられる場合に、保護する責任があると判断されます。例えば、ベビーシッターなどがこれに当たります。
    通常の雇用契約では、この義務が発生することは想定しにくいですが、住み込みで働き、家族同然の状態である場合に、慣例又は契約に基づいて、雇い主に保護する義務があると判断した裁判例があります。他にも養子契約を根拠に「保護する義務」を認めた例があります。
  3. 条理
    条理に基づく責任は、具体的な事情に応じて、法の精神に基づいて判断されます。漠然としているところがありますが、行為者の先行行為がある場合や、保護をいったん引き受けた、などといった事情がある場合に義務が認められると考えています。
    例えば、同棲相手の連れ子に対しては、条理に基づき、保護する義務が認められると考えられます。他にも同行していた同僚が喧嘩でけがを負ったにも拘らず放置した場合にも保護責任者遺棄罪が成立すると判断した例があります。先行行為を根拠とする場合としては、覚せい剤を注射した後にショックを起こした者を見捨てた場合に、保護責任者遺棄罪が成立した例があります。

 

Q 子どもに食事を与えず死亡させた場合には、常に保護責任者遺棄致死罪が成立するのでしょうか?

A 殺人罪が成立する場合がありますので、保護責任者遺棄致死罪になるとは限りません。

一定の犯罪の場合、積極的に何かをしなかったとしても、むしろ何もしないことそれ自体が犯罪になることがあります。

必要な保護をせず、そのまま死亡させてしまった場合(簡単に言うと見殺しにしてしまった場合)には、保護しなかったこと自体が殺人行為だと考え、殺人罪が成立する場合があります。

そして、殺人罪か保護責任者遺棄致死罪になるかの分かれ目は、保護をしなかった者にどのような認識があるのかという点にあります。助けを必要とする者が、「死んでもよい」ないしは「死んでもしかたない」という風に「保護する義務」を持った者が考えていた場合には、殺人罪が成立します。これに対し、死んでしまう、死んでもよいとは考えていなかったような場合には、保護責任者遺棄致死罪が成立します。

 

~遺棄・保護責任者遺棄事件における弁護活動~

1 取調べ対応・情状弁護活動

保護責任者遺棄致死罪などの重大事件では、逮捕・勾留され、警察など捜査機関による取調べが続きます。

刑事事件専門の弁護士は、日々、被疑者・被告人のもとに接見(面会)へ向かい、警察などの取り調べ状況をチェックします。

また、依頼者に量刑上有利な事情を主張し、少しでも有利な判決をめざします。有利な事情としては「遺棄」することになってしまった事にやむを得ない理由があることなどが考えられます。

 

2 自分が犯人でないことを争う活動

冤罪というのは、無実の人が罪に問われ、被疑者として逮捕されたり、裁判で有罪の判決を受けたりして犯罪者と扱われてしまうことです。

冤罪の大きな原因は、警察官等から「お前がやったのだろう。」「証拠は挙がってるんだ」「認めないと刑が重くなるぞ」等と威圧的な取調べに屈してしまったり、連日連夜の厳しい取調べに根負けしてしまい「はい。やったのは私です。」「私が全てやりました。」等と認めてしまう(自白)ことが多いです。

一旦、自白をしてしまうと、後に控えている裁判で「あの自白は間違っていました」と言っても、なかなか認められにくい現状があります。取調べは密室で行われるため、たとえ違法な手法で行われたとしても、それを裁判で証明することは容易ではないのです。

特に遺棄罪・保護責任者遺棄罪は成立するかの判断が難しいので、捜査機関の言い分に従っているうちに、気づかないまま自分に不利な内容の調書が作成されるおそれが高いといえます。

逮捕されたとしても、早い段階で弁護士がつくことで、取調べへのアドバイスをしたり、面会をして励ましたり、違法な取り調べに対し抗議を送ったりして、取調べに対応することができます。

津や四日市など三重県の遺棄・保護責任者遺棄事件でお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご連絡ください。弊所では、三重県内の様々な犯罪について、刑事事件・少年事件に専門特化した弁護士による無料の法律相談を行っています。

関係者が三重県で逮捕勾留されている場合でも、最短当日に、弁護士が直接留置場や拘置所へ出張面会してアドバイスする初回接見サービスもご用意しています。

 

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