飲酒運転によるひき逃げ事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
◇事件◇
Aさんは、知人の家でお酒を飲んで車で帰宅する道中、三重郡朝日町の信号のない交差点で、交差点を横断中の自転車と接触する交通事故を起こしてしまいました。
しかし、Aさんは、事故を起こす直前に飲酒をしていたため、飲酒運転による人身事故の発覚を恐れて、そのまま逃走してしまったのです。
事故後一度は帰宅したAさんんでしたが、自転車の運転手が大けがをしているのではないかと心配になり、歩いて事故現場に様子を見に行きました。
目撃者がAさんに気付き、現場検証していた警察官に職務質問されたAさんは、飲酒運転とひき逃げの事実を認めたため、その場で逮捕されてしまいました。
警察署に引致されたAさんは「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」と「ひき逃げ」の疑いで取調べを受けています。
(フィクションです。)
過失運転致(死)傷アルコール等影響発覚免脱罪は、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、法律)という法律が新設された際(施行日は平成26年5月20日)に設けられた罪で、この法律の第4条に規定されています。
過失運転致(死)傷アルコール等影響発覚免脱罪が新設された趣旨は、学説からは様々な批判があるものの、一般に「『逃げ得』を防止するため」と説明されています。
つまり、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させて人を死亡させた場合、危険運転致死罪が適用される可能性が高いですが (法律第2条1号:法定刑の上限は懲役20年)、 その場合に犯人が逃走することで、 アルコールによる影響の程度を立証できないために危険運転致死罪の適用を免れる事態が生じてしまいます。
こうした法制の下では、 救護義務違反罪 (いわゆる、ひき逃げ) を犯してでも、罪の重たい危険運転致死傷罪の適用を免れるためにその場を逃走する者が生じやすくなり、結果として、過失運転致死罪と救護義務違反でしか処罰できないということになりかねません(この場合の刑(処断刑)の上限は懲役15年)。
そこで、このような「逃げ得」を防止し、 適正な処罰を可能とするために本罪が新設されたと説明されています(過失運転致(死)傷アルコール等影響発覚免脱罪と救護義務違反が成立した場合の刑の上限は懲役18年)。
◇過失運転致(死)傷アルコール等影響発覚免脱罪とは◇
過失運転致(死)傷アルコール等影響発覚免脱罪の内容について具体的に解説します。
法律第4条では次の規定が設けられています。
法律第4条の規定が長いので、これを箇条書きにしてまとめると、過失運転致(死)傷アルコール等影響発覚免脱罪は
(主 体):アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者
(条 件):運転上必要な注意義務を怠り、よって人を死傷させた場合
(行 為):アルコール又は薬物の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為
をした場合に成立し得る犯罪ということになります。
◇自ら事故現場に戻っても「ひき逃げ」になる◇
Aさんは「ひき逃げ」の罪にも問われています。
ひき逃げとは、道路交通法72条1項前段に規定する救護措置義務、同項後段に規定する事故報告義務義務に違反することです。同項1項前段では、「直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路の危険を防止する等必要な措置を講じなければならない」と規定されています。
つまり、まずは、「直ちに車両等の運転を停止」しなければならず、停止せず立ち去った場合はもちろん、停止した場合でも、負傷者を救護し、道路の危険を防止する等必要な措置を講じなかった場合は、その時点で救護義務違反(ひき逃げ)が成立します。
逃走後に自ら事故現場に戻っても、「ひき逃げ」の罪が免除されるわけではありませんから注意が必要です。