正当防衛について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
◇事件◇
三重県尾鷲市の食品加工会社に勤務するAさんは、同じ工場で勤務する同僚と仲が悪く、些細なトラブルが絶えません。
先日も、この同僚に作業態度を注意されたAさんは、同僚と口論になった挙句、取っ組み合いの喧嘩をしてしまいました。
Aさんは先に同僚から胸倉を掴まれたので、同僚の身体を突き飛ばし、その後殴り合いの喧嘩に発展したのですが、Aさんの暴行によって、同僚は前歯を折る重傷を負ってしまいました。
喧嘩の翌日に、同僚が三重県尾鷲警察署に被害届を提出したことからAさんは、傷害の容疑で取調べを受けています。
(フィクションです)
◇三重県尾鷲警察署◇
【所在地】〒519-3652 三重県尾鷲市古戸町1-50
【電話番号】0597-25-0110
三重県尾鷲警察署は、尾鷲市と北牟婁郡紀北町を管轄する警察署で、その管内人口は、約3万4千人です。
三重県尾鷲警察署の管内治安は比較的平穏で、平成30年度の刑法犯犯罪発生件数は112件と非常に少ないながらも、検挙件数は40人を超えています。
(三重県警察のホームページを参考)
◇傷害罪◇
暴行によって相手に傷害を負わせると「傷害罪」となります。
刑法第204条(傷害罪)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円の罰金に処する。
◇正当防衛◇
今回の事件で、最初に胸倉を掴まれるという暴行を受けたAさんは「正当防衛」を主張しています。
刑法第36条(正当防衛)
1 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむをやむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
上記のように、刑法では正当防衛と、過剰防衛について規定しています。
刑法の条文にも明記されているように、正当防衛は
①急迫不正の侵害に対して
②自己又は他人の権利を守るために
③やむを得ず行った防衛行為
でなければなりません。
~急迫不正の侵害~
「急迫」とは、法益の侵害が現に存在しているか、又は直前に迫っていることを意味します。
「不正」とは、違法であればよく、有責である必要までは要しないとされています。つまり、刑事責任能力のない、精神病者や触法少年による侵害行為に対しても、正当防衛は成立します。
「侵害」とは、生命、身体に危険を生じさせる違法な行為を意味し、故意と過失、作為と不作為とを問いませんが、積極的な侵害行為でなければならないとされています。
~やむを得ずに行った防衛行為~
防衛行為は、自己又は他人の権利を守るために必要最小限度でなければなりません。
ここでいう「必要最小限度」とは、防衛行為にかかるもので、防衛行為によって生じた結果までは最小限度である必要はありません。
なお、この防衛行為が相当な範囲を超えた場合は、過剰防衛として、刑の任意的な減軽、免除の対象となります。
◇事件を検討◇
Aさんの行為に、正当防衛が成立するかどうかを検討します。
同僚から胸倉を掴まれたことについては、正当防衛でいうところの「急迫不正の侵害」に該当するでしょう。その「急迫不正の侵害」から逃れるために同僚の身体を突き飛ばすまでであれば「正当防衛」が認められるかもしれませんが、その後の暴行行為に関しては、正当防衛が成立するのは難しいでしょう。
ただ今回の事件は、Aさんが同僚に対して一方的に暴行をはたらいているわけではありませんので、Aさん自身が、暴行や傷害の被害者になることはあり得るでしょう。
この様に、お互いが被疑者であり、被害者であるような暴行、傷害事件を相被疑事件といいます。