無車検・無保険車両の運転で前科つくかについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
◇事件◇
三重県鳥羽市に住む会社員のAさんは、運転免許証を保有していますが、普段はあまり車を使用しません。
自宅には、10年ほど前に購入した普通車がありますが、3年前に車検が切れてからは使用していませんでした。
しかし数日前に、エンジンがかかるか確かめたところ、順調にエンジンがかかり、ガソリンも残っていたためAさんは、再度、車検を通して使用できるようにしようと考えていました。
そんな矢先、台風の直撃を受けて通勤に利用している路線バスが運休になってしまったことからAさんは、この車を運転して鳥羽市郊外にある職場まで通勤したのです。
そして帰宅途中に、幹線道路を走行中に車が故障してしまい、車が動かなくなってしまいました。
目撃者が110番通報したらしく、現場に駆け付けた三重県鳥羽警察署の警察官に、Aさんは、無車検、無保険車両を運転していたことが発覚してしまいました。
(フィクションです)
◇無車検◇
自動車検査証が無い状態、あるいは自動車検査証の有効期限が切れている状態で、無車検の自動車を運転した者は、道路運送車両法違反の無車検車運行の罪に当たるとして、刑事処罰を受けます。
最初から自動車検査証を交付されていないケースに加え、自動車検査証の更新をしていない車検切れのケースであっても、無車検運行の罪となります。
~道路運送車両法第58条1項(自動車の検査及び自動車検査証)~
「自動車(略)は、この章に定めるところにより、国土交通大臣の行う検査を受け、有効な自動車検査証の交付を受けているものでなければ、これを運行の用に供してはならない。」
無車検運行による刑事処罰の法定刑は、「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」とされています。
◇無保険◇
また車検とともに義務付けられているのが、自動車損害賠償責任保険、いわゆる自賠責への加入です。
保険に加入せずに自動車を運転すると、自動車損害賠償保障法違反となってしまいます。
~自動車損害賠償保障法第5条(無保険車運行)~
「自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(略)又は自動車損害賠償責任共済(略)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。」
無保険車運行罪による刑事処罰の法定刑は、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」とされています。
この他にも、自動車損害賠償保障法では、自賠責保険の証明書を不携帯の状態で、自動車を走らせることを禁止しており、この違反に関しては「30万円以下の罰金」の法定刑を定めています。
◇行政処分◇
車検切れ車両の運転(無車検)と、無保険車両の運転は行政処分の対象にもなり、共に違反点数6点が累積されます。
◇どの程度の刑事処分が科せられるのか?◇
無車検、無保険車両の運転が刑事事件化された場合、どの程度の刑事処分が科せられるのか気になるところでしょうが、無車検、無保険車両の刑事処分については、様々な事情が考慮されて決められることとなるので、ここでは、どのような事情が刑事処分に大きく影響するかを説明します。
無車検、無保険車両の刑事処分に大きく影響する事情としては
①無車検、無保険であることの認識(故意)
②無車検、無保険を使用した頻度
③再発防止に向けた取り組み
の3点ではないでしょうか。
①について検討すると、自分が保有する車両の場合は、無車検、無保険であることの認識を否定することは難しいと思われますが、人から借りて運転していた車については故意が否定される場合もあり、その場合は刑事処分を免れる可能性も出てきます。
続いて②については常習性を裏付けるものとなります。中には、それなりの理由があって仕方なく無車検、無保険車両を運転してしまった場合もあるかもしれません。その場合は、比較的悪質性が低いと判断されることもあります。
最後に③については、更生意欲があるかどうかの判断基準になります。違反者だけでなく、家族を巻き込んで、どのような取り組みをするかが、刑事処分に大きく影響します。