放火事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
◇事件◇
三重県亀山市で飲食店を経営しているAさんは地元の消防団に所属しています。
刺激のない日常生活に飽き飽きしていたAさんは、2ヶ月ほど前に、お店の近くにあるアパートの駐輪場にとめてあったスクーターの座席シートにライターで火をつける放火事件を起こしました。
そして第一発見者を装って、119番通報すると共に消火活動を行って消火したのです。
火は、周りに延焼することなく、スクーターを焼損しただけで消し止められました。
この日、Aさんは現場に駆け付けた三重県亀山警察署の警察官によって事情聴取を受けましたが、「帰宅途中に燃えているのを発見したので、すぐに消火活動した。」等と説明したのです。
しかし今朝、Aさんは、三重県亀山警察署の警察官によって、建造物等以外放火罪で逮捕されてしまいました。
(フィクションです)
◇三重県亀山警察署◇
【所在地】〒519-0165 三重県亀山市野村4丁目1番27号
【電話番号】0595-82-0110
三重県亀山警察署は、亀山市を管轄する警察署です。
三重県亀山警察署が管轄する亀山市は、人口5万人に満たない小規模都市ですが、中京圏と近畿圏を結ぶ交通の要衝であることから、関東、関西方面の有数の企業が進出しており、内陸工業都市として栄えています。
三重県警察のホームページによりますと、平成30年度の刑法犯認知件数は277件と少なく、中でも凶悪犯罪の発生は0件です。
(三重県警察のホームページを参考)
◇放火◇
刑法には、現住建造物等放火罪、非現住建造物等放火罪、建造物等以外放火罪等いくつかの放火に関する条文があります。
放火した対象物や、建物の場合は、その建物の用途や種類、建物に人が存在していたかどうか、そして放火行為によって公共の危険が生じたかどうか等によって、適用される条文は異なります。
~建造物等以外放火罪~
スクーターの座席シートにライターで火をつける行為について検討します。
スクーターは建造物ではありませんので、他に延焼しない限りは、刑法第110条の建造物等以外放火罪が適用される可能性が高いでしょう。
建造物等以外放火罪は、放火行為によって公共の危険が生じなければ適用されません。
放火行為によって公共の危険が生じた場合、他人の物に放火して有罪が確定すれば「1年以上10年以下の懲役」が、自己の所有物に放火して有罪が確定すれば「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金」が科せられます。
ちなみに、放火行為によって公共の危険が生じなかった場合は、刑法第261条の器物損壊罪が適用される可能性が高く、その場合の法定刑は「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」が科せられます。
~公共の危険~
公共の危険とは、不特定又は多数人の生命、身体、財産に危険を生じさせる状態を意味します。
放火罪は、典型的な公共危険罪と言われており、放火に関するそれぞれの法律には、その成立要件として、焼損の他に、公共危険の発生の有無が問題となり、公共の危険が発生しなければ適用されない条文もあります。
~事件を検討~
今回の事件を検討すると、放火したスクーターの損傷程度や、現場の状況によって公共の危険が生じたかどうかが決まるでしょう。
もし、駐輪場のすぐ横に建物があったり、燃えやすい物があった場合は、延焼する可能性が高いと判断され、公共の危険が認定される可能性があります。
逆にAさんが、他に延焼する前に自分で消火活動をしている点を踏まえれば、公共の危険を未然に阻止していると捉えることもでき、器物損壊罪の適用にとどまる可能性もあります。
公共の危険の有無は、周りの環境や、その日の天候、犯行時の状況等によって左右されますので、刑事事件専門の弁護士に相談することをお勧めします。