執行猶予中の暴行事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
◇事件◇
Aさんは、2年前に、酔払って通行人と喧嘩をしてしまい、傷害罪で「懲役1年執行猶予3年」が確定しています。
執行猶予中なので、Aさんはお酒を控えていましたが、先日、会社の懇親会でお酒を飲んでしまったAさんは、久しぶりにお酒を飲んだこともあり、酔払ってしまいました。
そして会社の同僚と口論になってしまい、同僚に対して、首を絞める暴行を加えてしまいました。
その場は、周りにいた人達が制止して収まったのですが、後日、この同僚が暴行罪で三重県津南警察署に被害届を出したようです。
Aさんは、自分が執行猶予中であるため、早急に同僚と示談してくれる弁護士を探しています。
(フィクションです)
◇三重県津南警察署◇
【所在地】〒514-1101 三重県津市久居明神町2501-1
【電話番号】059-254-0110
三重県津南警察署は、津市の南部を管轄する警察署ですが、津市の北部を管轄する三重県津警察署とは違い、小規模な警察署です。
平成30年度の刑法犯認知件数は700件未満と少なく、三重県津南警察署では、詐欺事件の被害防止の取り組みに力を入れているようです。
(三重県警察のホームページを参考)
◇暴行罪◇
刑法第208条
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留又は科料に処する。(刑法抜粋)
~暴行とは?~
暴行罪でいう「暴行」とは、人に対する、物理的な力の不法な行使を意味するとされています。
殴る、蹴る等の直接的な有形力の行使は当然のこと、人に向かって物を投げたり、唾を吐きかけたりする行為も暴行に当たります。
あおり運転等が社会問題となっている最近では、走行中の車の前方で急ブレーキをかけたり、後方から急接近する行為も「暴行」とされる場合があります。
~「拘留」又は「科料」って?~
「拘留」とは、1日以上30日未満、刑事施設に拘置される刑罰です(刑法16条)。
刑事施設から出られないということで、懲役や禁錮と同様に自由を奪われる自由刑の一種になりますが、現在ではほとんど言い渡されていません。
「科料」とは、1,000円以上10,000円未満の支払いを言い渡される刑罰です。(刑法17条)。
◇執行猶予◇
執行猶予とは、刑法第25条に定められています。
この条文によると「5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことのない者」が「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けた時」は、情状によって裁判の確定日から1年以上5年以下の期間で、刑の執行を猶予できる旨が明記されています。
法律的には罰金刑の執行を猶予する事もできますが、そもそも執行猶予の制度は、刑務所に服役するよりも、社会において被告人を更生させる事を目的とした制度であるため、罰金刑に対する執行が猶予された裁判例はほとんどありません。
この条文だけを見ると、執行猶予中の者は、5年以内に禁錮以上刑に処せられたことのない者には該当しないので、執行猶予中の執行猶予は事実上あり得ないと考えられます。
しかし、刑法第25条第2項には、前に禁錮以上の刑に処せられて、その執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言い渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがある時は同様に執行を猶予できると明記されているので、条件を満たせば執行猶予中の執行猶予があり得るという事になります。
◇確実なのは被害者と示談して不起訴を目指す◇
今回、Aさんが起こした事件は暴行事件です。
今回の暴行事件の処分が、不起訴であれば確実に執行猶予が取り消される事はありませんが、起訴されてしまえば、Aさんの前科、前歴の状況によっては執行猶予が取り消される可能性があるので注意しなければなりません。
ただ暴行事件のような被害者がいる事件の場合は、早期に弁護士を選任して、被害者と示談すると共に、被害届が取下げられる等の宥恕措置があれば、不起訴処分も十分に見込む事ができるので、Aさんは、執行猶予が取り消されずに、刑務所の服役を免れる可能性が生まれます。
上記したように、法律上は、執行猶予中の犯行であっても、再度執行猶予を得る事は可能ですが、その条件は非常に厳しいもので、滅多にあるものではありません。