夫婦喧嘩が刑事事件に発展した場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
◇事件◇
Aさんは、三重県度会郡玉城町に同い年の妻と住んでいますが、夫婦関係は非常に悪く、1年ほど前から夫婦喧嘩が絶えません。
これまで何度か、大声で夫婦口論していたことから、近所の人が110番通報して、警察官が自宅に臨場する騒ぎを何度か起こしているぐらいです。
先日も、些細なことから妻と口喧嘩をしたAさんは、思わず妻の体を突き飛ばしてしまいました。
そして転倒した妻は、机の角に頭を打ちつけ、後頭部から出血するケガを負いました。
翌日、妻が診察を受けた病院から警察に事件が報告され、Aさんは、傷害罪で警察に逮捕されてしまいましたが、妻はAさんの刑事罰を望んでいませんでした。
そしてAさんは逮捕後に10日間の勾留を受けましたが、その後に、処分保留で釈放されました。
(フィクションです。)
◇夫婦喧嘩でも刑事事件に発展◇
かつては民事不介入を理由に、警察が家庭内のトラブルに介入することはありませんでしたが、平成13年にDV防止法が施行されてからは、家庭内のトラブルであっても積極的に警察が介入するようになり、最近ではAさんのように逮捕されるケースも珍しくありません。
警察等の捜査当局は、たとえ被害者に被害申告の意思がなくても、再発の防止や、更なる重要事件へ発展する可能性があることを考慮して、被害者を保護したり、加害者を逮捕しているようです。
◇暴行・傷害事件◇
配偶者に対する暴力(DV・ドメスティックバイオレンス)については、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)で規制されている部分もありますが、この法律は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図ることを目的にしており、暴行、傷害の行為そのものを取り締まったり、暴行、傷害した行為者に刑事罰を科すことを目的にしているものではありません。
そのため、家庭内暴力事件は、刑事手続き上「暴行罪(刑法第208条)」が適用され、それによって相手が怪我をすれば「傷害罪(刑法第204条)」が適用されます。
※行為態様によっては、暴力行為等処罰に関する法律違反や、逮捕、監禁罪など別の法律が適用される場合もありますので、不安のある方は刑事事件に強い弁護士に相談してください。
~暴行罪(刑法第208条)~
人を暴行すれば「暴行罪」の適用を受けます。
暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。
躾(しつけ)のつもりでも、刑事事件化されて暴行罪の適用を受けた場合は、起訴されて有罪が確定すれば、この法定刑内で刑事罰を受けることとなり、前科が付いてしまいます。
~傷害罪(刑法第204条)~
暴行によって相手に傷害を負わせてしまえば「傷害罪」の適用を受けます。
「怪我をさせるつもりはなかった。」と言いましても、故意的な暴行行為がある場合は傷害罪に抵触する可能性が非常に高いでしょう。
なお、傷害罪の法定刑は「15年以下の罰金又は50万円以下の罰金」ですので、起訴されて有罪が確定すれば、この法定刑内で刑事罰を受けることとなり、前科が付いてしまいます。
◇処分保留とは◇
警察等の捜査機関から事件(被疑者)の送致を受けた検察官は、起訴するかどうかを判断します。
~起訴~
起訴された場合は、公開される裁判(公判)で刑事処分が決定する場合と、罰金を支払えば裁判は行われずに、全ての刑事手続きが終了する略式起訴(罰金)の場合があります。
~不起訴~
検察官が起訴しないことを「不起訴」といいます。
不起訴の理由は様々ですが、不起訴は、刑事罰が科せられないことを意味しますので前科は付きません。
~「処分保留」とは?~
被疑者が、勾留によって身体拘束を受けている場合、その勾留期間は10日~20日と法律で決まっています。
そして検察官は、この勾留の満期時に起訴するか否かを決定しなければなりません。
しかし、様々な事情(主に起訴するだけの証拠が揃っていない)があって検察官が勾留の期間内に、起訴するかどうかの決定ができない場合に「処分保留」となって、勾留されていた被疑者は釈放されます。
「処分保留」となった場合は、その後も引き続き捜査が継続されて、新たな証拠が出てきた場合には、起訴されることもありますが、既に被疑者が釈放されていることもあり、捜査を尽くしても、新たな証拠が出てくる可能性は低く、最終的には不起訴処分になるケースがほとんどのようです。