業務上横領事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
◇事件◇
Aさんは、三重県いなべ市にあるディスカウントショップで店長をしています。
Aさんが働いているお店は全国にチェーン展開するディスカウントショップで、5年前にアルバイトとして働き始めたAさんは、その真面目な勤務態度が評価されて3年前に正社員として任用されて、半年前からは、いなべ店の店長を任されていました。
店長になってから、接客は当然のこと、お店の在庫管理から、注文、本部への売り上げの報告等に至るまで、これまでよりも業務量が格段に増え、残業が多くなったにも関わらず、給料があまり上がりませんでした。
そのことに不安を抱くようになったAさんは、お店の商品をインターネットのオークションサイト等で転売して小遣い稼ぎすることを思いつき、お店の倉庫に保管している在庫の数を少なく本部に報告して、倉庫に保管している商品をネットで転売しました。
数か月間のネット転売で数百万円の利益を得ていたのですが、本部が不正に気付いたようで、先日、お店に本部の査察が入って、これまでの帳簿等が回収されてしまいました。
Aさんは、今後のことが不安で刑事事件専門の弁護士に相談することにしました。
(フィクションです。)
◇Aさんの不正が刑事事件化されると◇
Aさんの行為が何の犯罪に当たるのかについて検討します。
~業務上横領罪~
刑法第253条
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
今回の事件で、店長であるAさんは、お店の在庫商品を管理する立場にあります。Aさんのお店の在庫商品は、当然お店の物であってAさんの物ではありませんので、業務上横領罪でいうところの、Aさんが「業務上自己の占有する他人の物」となります。
また「横領」とは、自己の占有する他人の物を不法に取得することですので、Aさんの行為は業務上横領罪に当たるでしょう。
上記のとおり業務上横領罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
罰金刑の規定ないため、起訴された場合は、無罪を得るか、執行猶予付きの判決が言い渡されない限りは刑務所に服役しなければなりません。
~窃盗罪では?~
窃盗罪は、他人の占有する財物を不法に領得する犯罪です。
今回の事件でAさんが転売した商品は、自己の占有する他人の物ですので、窃盗罪には該当しないでしょう。
店長のようにお店の在庫商品を管理する立場にない、アルバイトや社員が、Aさんのような行為に及んだ場合は窃盗罪が成立する可能性があるでしょうが、今回の事件では窃盗罪が成立する余地はないと考えられます。
◇弁護活動◇
上記したように、業務上横領罪の法定刑には、罰金刑の規定がありません。
そのため、起訴された場合は、無罪を得るか、執行猶予付きの判決が言い渡されない限りは刑務所に服役しなければなりませんので、まずは不起訴を目指す刑事弁護活動となります。
つまり、検察官が起訴を決定するまでに一刻も早く被害者に被害弁償し、示談を締結する必要があるのです。
これまでの業務上横領罪で起訴された刑事裁判の判決をみてみると、横領額が100万円を超えた場合は、初犯であっても起訴される可能性があるようですので、Aさんの刑事処分の軽減を望むのであれば、起訴を回避するために、早急に示談を締結することが必要不可欠となります。