覚せい剤取締法違反で即決裁判手続

即決裁判手続について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
三重県伊賀警察署は、三重県伊賀市に住む自営業のAさんを覚せい剤取締法違反(覚せい剤所持)の容疑で逮捕しました。
Aさんは容疑を認めていますが、身体拘束が長期化すると自身が経営する店への影響が大きくなることを心配しており、どうにか早期に釈放とならないかと考えています。
逮捕の連絡を受けたAさんの妻も、早期釈放の可能性について弁護士に聞いています。
(フィクションです。)

覚せい剤取締法違反事件において、逮捕後に勾留となる可能性は非常に高いと言えます。
覚せい剤の入手経路を明らかにし、売人などの関係者との接触を防ぐためにも、覚せい剤などの薬物事犯の被疑者の身柄を確保しつつ捜査を継続する必要があるからです。
また、覚せい剤取締法違反事件では、傷害事件や盗撮事件といった事件とは異なり、被害者が存在しません。
そのため、被害者との示談によって起訴猶予となることは見込めません。

覚せい剤取締法違反事件では、初犯であり、自己使用目的での少量の所持などであれば、即決裁判手続の対象となり得るでしょう。

即決裁判手続とは

通常の刑事裁判は、冒頭手続に始まり、証拠調べ手続を経て、当事者の最終の意見陳述を行い、終結して判決が言い渡されます。
このような通常の公判手続を簡略化したものに、「即決裁判手続」というものがあります。
即決裁判手続とは、事案が明白であり、軽微で争いがなく、執行猶予が見込まれる事件について、速やかに公判期日を指定して相当な方法により審理を行い、原則として即日に執行猶予判決を言い渡す手続です。

即決裁判手続の要件は、

①事案が明白であり、かつ、軽微であること、証拠調べが速やかに終わると見込まれるなど、即決裁判手続で審理するのが相当と認められる事件であること。

②死刑、無期、短期1年以上の懲役または禁錮にあたる罪ではないこと。

③被疑者の書面による同意があること。

④被疑者に弁護人があるときは、弁護人の書面による同意があるか、少なくとも意見を留保していること。

の4つです。
これらの要件を満たす場合に、検察官は即決裁判手続の申立てを行います。

即決裁判手続の特徴のひとつに、手続の迅速性があげられます。
即決裁判手続は、起訴からできるだけ早い時期に公判期日が指定され、原則として1回の審理で即日執行猶予判決を言い渡されます。
また、即決裁判手続では、必ず執行猶予判決となることも大きな特徴です。
被告人としては、起訴後速やかに公判が開かれ、執行猶予判決が言い渡されますので、捜査段階から身体拘束を受けている場合には、早期の釈放というメリットがあります。

他方、手続の迅速性と関連して、即決裁判手続では、通常の刑事裁判における証拠調べの方法が大幅に緩和されています。
また、即決裁判手続による審理でなされた判決については、事実誤認を理由とする控訴・上告は認められないという重大な効果が生じてしまう点に留意が必要です。

即決裁判手続には、メリット・デメリットがありますので、事前に弁護士をよく相談し、捜査段階で検察官に即決裁判の申立てをするよう働きかけるべきか否かを検討する必要があるでしょう。

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