交番における業務妨害は何罪?①~公務執行妨害罪~

交番において警察官の業務妨害行為をした場合は何罪となるのか検討するにあたり、特に公務執行妨害罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

◇事件◇

三重県いなべ市に住んでいるAさん(17歳)は、以前、三重県いなべ警察署の警察官に補導され、その時に夜遅くに出歩かないよう注意されたことを根に持っており、警察官に迷惑をかけてやりたいと思っていました。
そこでAさんは、三重県いなべ警察署の管轄にある交番へ行き、警察官が不在の間に、交番の出入り口に消火器を噴射しました。
これによって、交番はしばらく出入りが困難な状態になってしまいました。
Aさんの犯行を目撃していた通行人が通報し、捜査の結果、Aさんは威力業務妨害罪の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんの両親は、Aさん逮捕の知らせを聞いた際、警察の邪魔をしたらしいということなのになぜよく聞く公務執行妨害罪ではないのか、もしかしてAさんが不要な疑いを持たれているのではないかと不安に思っています。
(※令和2年4月9日東海テレビ配信記事を基にしたフィクションです。)

交番における業務妨害は公務執行妨害罪ではない?

今回のAさんは、交番へ消火器を噴射したことで逮捕されてしまっていますが、Aさんの両親は、Aさんの逮捕容疑が威力業務妨害罪であることに疑問を持っているようです。
一般のイメージとして、警察官などの公務員に対して何かしてしまった場合、公務執行妨害罪によって逮捕されたり捜査されたりというイメージが強いかもしれません。
ドラマなどでも、職務質問をされた被疑者が暴れて公務執行妨害罪の容疑で取り押さえられる、というようなシーンを目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
しかし、今回のAさんは、交番に消火器を噴射しているにもかかわらず、公務執行妨害罪の容疑で逮捕されていません。
どうして罪名が異なるのでしょうか。

まず、公務執行妨害罪の条文を確認してみましょう。

刑法第95条第1項(公務執行妨害罪)
公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

このうち、今回ポイントとなるのは公務執行妨害罪として成立するのが「公務員が職務を執行するに当たり」行われたものである必要があるという点です。

「公務員」とは、文字通り公務員を指しています。
例えば、警察官はもちろん、市役所の職員や、公立の学校の先生や職員もこの対象です。
そして、公務執行妨害罪の条文では、その公務員が「職務を執行するに当たり」暴行や脅迫が行われることで公務執行妨害罪が成立するとされています。
大まかに言えば、これは「仕事をする際に」という意味です。
加えて、この「職務」とは、仕事全てをざっくりと含んでいるわけではありません。
判例では、公務執行妨害罪は「公務員そのものについて、その身分ないし地位を特別に保護しようとするものではなく、公務員によつて行なわれる公務の公共性にかんがみ、その適正な執行を保護しようとするものである」ことから、「その保護の対象となるべき職務の執行というのは、漫然と抽象的・包括的に捉えられるべきものではなく、具体的・個別的に特定されていることを要するものと解すべき」とされています(最判昭和45.12.22)。
ですから、公務執行妨害罪の「職務を執行するに当たり」とは、「ある程度具体的・個別的に特定された公務員の仕事をするに際して」ということになるのです。

今回のAさんの事例を見ると、Aさんは警察官不在の交番に消火器を噴射しています。
対象が交番という建物であり、さらに警察官は不在にしていますから、客体が公務執行妨害罪の客体である「公務員」ではありません。
さらに、先程触れたように、公務執行妨害罪成立のためには、その公務員の「職務」=ある程度具体的・個別的に特定された仕事が行われるに当たって、暴行や脅迫が行わなければなりません。
警察官不在の際におこなわれ、しばらくの間人の出入りが困難になったという状況では、この「職務を執行するに当たり」という条件に当てはまらないと考えられます。
したがって、たしかにAさんは警察の業務妨害行為をしているようですが、公務執行妨害罪にはあたらないと考えられるのです。

ただし、例えば巡回中の警察官に消火器を噴射したような場合や、交番の中で警察官が仕事をしているところに消火器を噴射したような場合には、公務執行妨害罪が成立することになると考えられます。

では、やはりAさんの逮捕容疑である威力業務妨害罪が、Aさんに成立するであろう正しい罪名ということになりそうです。
これがどういった犯罪なのかは、次回の記事で取り上げます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、公務執行妨害事件威力業務妨害事件といった刑事事件・少年事件のご相談・ご依頼を受け付けています。
Aさんのご両親のように、自分のこどもが逮捕されてしまったが本当に大丈夫なのか、不要な疑いをかけられていないかと心配されている親御さんにも安心してご相談いただけます。
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