無銭宿泊で詐欺

無銭宿泊詐欺に問われるケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
三重県志摩市のホテルに代金を支払う意思がないのに宿泊し、チェックアウトの手続をせずにホテルを後にしたとして、三重県鳥羽警察署は、詐欺の疑いで県外に住むAとBを逮捕しました。
調べに対して、Aは、「Bが支払いを済ませたと思った。」と述べており、容疑を否認しています。
Aは、警察から弁護人を選任できることを聞いており、刑事事件に強い弁護士との接見を希望しています。
(フィクションです。)

今回は、無銭宿泊詐欺罪に問われるケースについて解説します。

詐欺罪

刑法第246条 
1 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させ、または財産上不法の利益を得、もしくは他人にこれを得させる犯罪です。
詐欺罪には、相手方の瑕疵ある意思に基づくと点に特徴があります。

■客体■
詐欺罪の客体は、他人の占有する他人の財物、そして、財産上の利益です。
窃盗罪や強盗罪の場合とは異なり、財物には、不動産も含まれます。
財産上の利益とは、財物以外の財産的利益一切をいい、債権・担保権の取得、労務・サービスの提供、債務免除や支払猶予などがあります。

■行為■
詐欺罪の行為は、人を欺いて財物・財産上の利益を交付させることです。
詐欺罪が成立するためには、①人を欺いて、②相手方に錯誤を生じさせ、③その錯誤に基づく財産的処分行為により、④財物・財産上の利益を交付させる、ものでなければなりません。
つまり、①人を欺く→②相手方の錯誤→③財産的処分行為→④財物の領得の一連の流れがあり、これらの間に相当因果関係がなければなりません。

①欺罔行為
「欺いて」とは、人を錯誤に陥れさせる行為のことです。
欺罔の手段・方法に制限はありませんが、人による物・利益の交付行為に向けられたものでなければなりません。

②錯誤
欺罔行為によって相手方を錯誤に陥れることが必要です。
欺罔行為により生じる錯誤は、交付の判断の基礎となる重要な事項についてのものでなければならず、それがなければ交付行為を行わなかったであろうような重要な事実に関するものでなければなりません。(錯誤→交付行為)

③財産的処分行為
詐欺罪の成立には、錯誤により生じた瑕疵ある意思に基づき、物・利益が交付される必要があります。
つまり、騙された者の瑕疵ある意思に基づく交付行為(処分行為)により、物・財産上の利益が移転することが必要となるのです。

④物の移転
相手方の処分行為によって、物の占有が行為者または第三者に移転することによって、詐欺罪は既遂となります。

無銭宿泊のケースでは、主に次の3つの場合が考えられます。
(1)最初から代金を支払う意思がないのにホテル等に宿泊して、支払いをせずに逃げた。
(2)代金支払いの時点でお金がないことに気付き、支払いをせずに逃げた。
(3)代金を支払う時点でお金がないことに気付き、「ATMで下ろしてくる。」と言ってホテルを出て、そのまま戻らず逃げた。

(1)の場合、最初から支払う意思がないのに宿泊を申入れており、その申入れる行為が欺罔行為に当たると考えられます。
その申入れにより、ホテル側は行為者がチェックアウト時に代金を支払うと信じ、宿泊という財産上の利益を交付していますので、この場合は詐欺罪が成立することになります。

(2)の場合、最初は支払う意思があったものの、支払時点で支払能力がないことに気が付いて隙を見て逃げたというものですが、この場合、宿泊の申入れ時には支払う意思があったため、この時点での欺罔行為はありません。
結果的に、支払わずに逃げたため、宿泊代金の支払猶予という財産的利益を取得しているのですが、行為者はホテル側に対して、支払いを猶予する処分行為をさせる欺罔行為を行っていないため、詐欺罪は成立しないことになります。

(3)については、支払いの時点で宿泊代金の支払を免れるために、ホテル側に「ATMで下ろしてくる。」と嘘をいい、ホテル側はそれを信じ承諾したことによって、ホテル側が代金の支払を猶予しています。
「ATMで下ろしてくる。」と言った行為が欺罔行為であり、それを信じたホテル側が代金の支払一時猶予するという財産上の利益を行為者に交付していますので、これについては詐欺罪が成立するものと考えられます。

詐欺罪の成立要件として、欺罔→錯誤→交付行為→財物・財産上の利益の移転という一連の流れのなかに相当因果関係がなければなりません。
このなかでも、欺罔については、行為時に行為者において相手方を騙す意思がなければならず、行為者の主観面の立証が必要となるため、詐欺罪の立証は容易ではありません。
上の事例においても、Aは「Bが支払ったと思っていた。」と述べており、自身は欺罔行為を行っていないと主張しています。
しかしながら、そのような主張をするだけでは不十分であり、行為時のAおよびBの所持金、AとBの供述内容(支払について事前にどのような取り決めがあったのか等)などから、欺く意思があったと認められることがあります。
そのため「支払う意思があった。」、「相手が支払ったと思っていた。」という主張を客観的な証拠に基づいて立証する必要があります。
無銭宿泊詐欺罪に問われており、容疑を否認している場合には、すぐに弁護士に相談し、取調べ対応についてのアドバイスを受けたり、客観的な証拠を収集・提示するなどして、詐欺罪が成立しないことを立証してくことが重要です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
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