往来危険罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
◇事件◇
三重県鳥羽市に住むAさんは、悪戯のつもりで近鉄電車の線路の上に置き石をしました。
走行中の特急電車が石を踏みつけて緊急停車したことから、置き石が発覚し、三重県鳥羽警察署が往来危険罪の容疑で捜査を開始したことが新聞に載っていたのを見たAさんは、警察に逮捕されるか不安です。
(フィクションです。)
◇往来危険罪◇
往来危険罪は、刑法第125条に次のように規定されています。その条文は以下の通りです。
第百二十五条
鉄道若しくはその標識を損壊し、又はその他の方法により、汽車又は電車の往来の危険を生じさせた者は、二年以上の有期懲役に処する。
2 灯台若しくは浮標を損壊し、又はその他の方法により、艦船の往来の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。
往来危険罪は、汽車・電車・艦船といった現代の主要交通機関の往来の安全を害する行為を、一般の往来妨害よりも重く処罰するものです。
「鉄道」は、レールだけでなく、構造上これと密接不可分の関係にあり、汽車、電車の走行に直接役立っているものすべて、例えば、枕木、鉄橋、トンネルなど、を含みます。
「標識」は、信号機その他運行のための目標を指します。
また、「灯台」とは、夜間、艦船の航行の利便を図るために灯火をもって示した陸上の標識であり、「浮標」とは、艦船の航行上安全か否かや、水の深さを表示する水上の目標、標示物をいいます。
往来危険罪の実行行為は、鉄道、標識、灯台、浮標を「損壊」し、またはその他の方法で、汽車、電車、艦船の往来の危険を生じさせることです。
「損壊」とは、物理的に破壊して、その効用を損なわせることをいいます。
そして、「その他の方法」とは、上の「損壊」以外の方法で、汽車、電車、艦船の往来の危険を生じさせることをいい、その手段や方法は問いません。
判例は、無人電車を使用する行為や、鉄道軌道上に石塊その他の障害物を置くことも「その他の方法」に当たるとしています。
往来危険罪の成立には、交通の妨害を生じさせた程度では足りず、交通機関の往来に危険な結果を生ずるおそれのある状態を発生させることが必要です。
つまり、汽車・電車・艦船の衝突・脱線・転覆・沈没・破壊など交通の安全を害するおそれのある状態が生じたことが必要となります。
この点、判例は、実害が発生するおそれについては、一般的可能性で足り、その必然性や蓋然性は必要ではないとしています。
電車の線路上に石塊をおくことにより、その上を走行した電車が脱線し横転する可能性が生じますので、上記ケースでは、損壊以外の「その他の方法」により汽車・電車の往来の危険を生じさせたと言えるでしょう。
Aさんのように悪戯のつもりで線路に石を置いたとしても、往来危険罪という犯罪が成立する可能性がありますので、注意しなければなりません。
また、往来危険罪を犯し、よって汽車・電車を転覆させたり、破壊した場合、または艦船を転覆・沈没・破壊させた場合には、より重い往来危険による汽車転覆等罪が成立する可能性があります。