自殺幇助事件で逮捕されたケースについて、弁護士法人あいち刑事事件法律事務所が解説します。
◇自殺幇助罪で逮捕◇
自殺願望を持っていたAさんは、ある日、SNSで知り合った、Aさん同様に自殺願望を持っていたVさんと意気投合し、「一緒に自殺しよう」という話になりました。
Aさんは、2人で自殺するための練炭を準備すると、三重県桑名市にある林道にVさんが借りてきたレンタカーを停めると、2人でその中に入って練炭を焚きました。
しかし、Aさんは途中で自殺するのが怖くなり、車から脱出すると110番しました。
三重県桑名警察署の警察官と救急隊員が駆けつけ、Aさんは病院に搬送され助かりましたが、Vさんはそのまま死亡してしまいました。
その後、Aさんは三重県桑名警察署の警察官に、自殺幇助罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(※令和2年4月8日産経WEST配信記事を基にしたフィクションです。)
◇自殺関与罪と自殺幇助罪◇
日本の法律には、自殺すること自体を罰する法律はありません。
自殺自体が犯罪として処罰されない根拠については諸説分かれています。
例えば、自殺自体は違法な行為であるが自殺するような状況では自殺した人を非難したり責任を問うたりすることはできないために処罰できないという考え方や、そもそも自殺は違法性がない、もしくは処罰するほど遺法性が大きくないという考え方があります。
今回問題となる自殺関与罪は、自殺した本人ではなく、その自殺に関わっている人を処罰する犯罪です。
自殺した本人は処罰しないにも関わらず、自殺に関わった他人は処罰するということを不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、先ほど例に挙げたような自殺した本人を処罰しないという考え方でも、自殺に関与した他人を処罰することには説明がつきます。
例えば、そもそも自殺は違法であるとする立場であれば自殺に関与するのはその違法な行為に関わる共犯者となるのだから違法であると解されており、自殺自体は違法ではないという立場の場合には、本人のみができる生命に関する意思決定に他人が影響を及ぼして生命を害する行為が違法になるのだと解されています。
今回のAさんの逮捕容疑である自殺幇助罪は、自殺関与罪と呼ばれる自殺に関連した犯罪のうちの1つです。
刑法第202条
人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。
この条文のうち、「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ」たという部分に当たるのが自殺関与罪であり、自殺を「教唆」した場合には自殺教唆罪、自殺を「幇助」した場合には自殺幇助罪と呼ばれます。
なお、刑法第202条後段の「人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した」という部分にあたる場合には、嘱託殺人罪または同意殺人罪に問われることになります。
自殺幇助罪の「幇助」とは、難しい言葉に感じるかもしれませんが、大まかに言えば手助けをすることを指しています。
つまり、自殺をしようと思っている人に対して自殺をすることを容易にする手助けをすると、自殺幇助罪が成立しうるということになります。
ここで重要なのは、自殺幇助罪はあくまですでに自殺を決意した人に対して自殺をする手助けをした際に成立する犯罪であるということです。
自殺を考えていない人に自殺をする意思を持たせたような場合には、自殺幇助罪ではなく、自殺教唆罪や、状況によっては殺人罪が成立する可能性が出てきます。
さらに、自殺幇助罪は自殺の手助けをした場合に成立するといっても、自殺をしたいという人に対して直接手を下すようなことをすれば、自殺幇助罪ではなく嘱託殺人罪が成立する可能性が出てくることになるでしょう。
今回のAさんは、自分とVさんが自殺するための練炭を用意しています。
Aさん自身は結果的に自殺を遂げなかったものの、その行為はVさんの自殺を容易にしたと言えます。
Vさんは元々自殺をする決意を持っていたところにAさんがそういった手助けをしているわけですから、今回Aさんには自殺幇助罪が成立すると考えられるのです。